村上春樹さんが受賞した、スペインのアストゥリアス皇太子賞〜
この賞は「スペインのノーベル賞」とも称されるほどの権威を持つ賞であり、村上さんの受賞は日本文学界に、とっても大きな意義を持つ出来事となりました。
今回は、その受賞の背景や、村上さんの最新作「街とその不確かな壁」についての考察を深めていきたいと思います。
アストゥリアス皇太子賞とは?
アストゥリアス皇太子賞は、スペインで最も権威のある賞として知られています。
特に文学部門での受賞は、その作家の国際的な評価を示すものとなります。
授賞式は10月20日に、スペイン北部オビエドで開かれました。
村上春樹さんは、この賞を受賞することで、その作品が西洋と日本の架け橋としての役割を果たしていることが再認識されました。
村上春樹さんについて
引用:ウィキペディア
- 名前:村上春樹
- 職業:小説家・翻訳家
- 生年月日:1949年1月12日
- 出身:京都府京都市伏見区生まれ、西宮市・芦屋市
- 出身校:早稲田大学
- 大学在学中にジャズ喫茶を開業。1979年『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。
- 有名な作品:羊をめぐる冒険(野間文芸新人賞)、世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(谷崎潤一郎賞受賞)、ねじまき鳥クロニクル(読売文学賞)、ノルウェイの森、アンダーグラウンド、スプートニクの恋人、神の子どもたちはみな踊る、海辺のカフカ、アフターダーク、1Q84など。
過去のスペイン皇太子賞受賞者
過去には、1999年に宇宙飛行士の向井千秋さんや、2022年には共存共栄部門で、建築家の坂茂さんなど、多岐にわたる分野での日本人受賞者がいました。
これにより、日本の多様な才能が国際的に評価されていることが伺えます。
今回は文学部門で、村上春樹さんが初受賞となりました。
賞金とその使途
賞金は5万ユーロ(約790万円)とされています。
これは、受賞者のさらなる活動をサポートするためのものとなっていて、文化や芸術の発展に寄与することが期待されています。
村上春樹さんの最新作「街とその不確かな壁」
6年ぶりとなる村上春樹さんの新作小説が、2023年の4月13日に発売されました。
この作品は、過去に発表された中編をベースにしていて、多くの読者からの注目を集めています。
最新作品の背景
「街とその不確かな壁」という作品は、村上春樹さんの15番目の長編小説として知られています。
この作品は、以前村上さんが文芸誌に掲載した同名の作品を大きく手直しして発表されたものです。
この文芸誌版は後に「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」という作品として再構築され、中期の代表作として知られています。
しかし、村上さんは文芸誌版に完全に満足していなくて、約3年の歳月をかけて現在の「街とその不確かな壁」を完成させました。
この作品は、前述の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」と多くのテーマや世界観を共有しています。
しかし、この作品は現代の日本人が直面する問題に深く焦点を当てています。
特に、コロナの影響で私たちが失ったものや、それをどのように取り戻すべきかというテーマが強く描かれています。
六本木ヒルズライブラリー内にある「動的書房 福岡伸一の書棚」を訪問しました。
現在、第三弾の選書を書評とともに並べております。
『街とその不確かな壁』『日本百名虫 フォトジェニックな虫たち』『サイレント・アース 昆虫たちの「沈黙の春」』など、秋の読書にもおすすめです。ぜひ。 pic.twitter.com/8LNVdST1hl
— 【公式】福岡伸一(Shin-Ichi Fukuoka) (@fukuoka_hakase) October 15, 2023
引用:ツイッター
文学者からの評価
ドイツ文学者の松永美穂さんや英米文学者の阿部公彦さんなど、多くの文学者がこの作品について熱く語り合っています。
特に、「壁」の意味や作品の終わり方についての議論が活発に行われています。
スペイン国王フェリペ6世は、スピーチで、
「文学作品の中で西洋と日本の世界を見事に結び付けることに成功している」
と称えています。
そして関係財団が、2023年5月に村上さんへの授与決定を発表していました。
村上春樹さんの作品の位置づけ
村上春樹さんは、日本文学の中心にはいないとの見解が一部から示されています。
しかし、日本文学は多様化していて、新しい作家が次々と登場しています。
近年の日本文学は、多様な作家や作品が登場していて、その中で村上さんの作品も独自の位置を築いています。
村上さんの作品は、国内外で高く評価されています。
特に、西洋と日本の文化を融合させた作品は、多くの読者から支持を受けています。
作品のあらすじと考察
作品中の人物に関して、具体的な名前は多くの読者には不明であり、呼び名も場面によって変わることがあります。
主人公は「ぼく」という言葉ではなく「主人公」として、街の話をしてくれる「きみ」は「少女」として表現されます。
また、「イエロー・サブマリンの少年」と「コーヒーショップの彼女」はそのままの名前で表現されます。
読む前に理解しておく概念
この作品を理解するための前提として、村上氏の作品には「集合的無意識」という概念が重要です。
これは「人間の意識の奥深くには無意識の領域が存在し、それはすべての人間と繋がっている」という考え方です。
この作品の「街」は、主人公と少女が意識的に作り上げたものですが、その基盤はすべての人と繋がる無意識の領域です。
言い換えれば、誰もが持つ純粋な精神の領域がこの「街」であり、それは人によって異なる形で現れるかもしれません。
作品内では、ガルシア・マルケスの「マジックリアリズム」という文学ジャンルが紹介されています。
このジャンルは、現実と幻想が融合した作風を持っています。
村上氏の作品も、現実と心の中、無意識の領域が混ざり合っていると感じられるものです。
読者は、物語を柔軟に受け入れ、象徴的な要素を楽しむことができます。
作品の中心的なテーマ
「街」と「壁」は、作品の中心的なテーマです。
「街」は主人公と少女が共に作り上げた空想の場所であり、その存在は二人の意識の中で形成されます。
しかし、この「街」は主人公の視点や意識によって作られたものであり、少女の視点での「街」は異なるかもしれません。
それぞれの人には独自の「街」が存在すると考えられます。
一方、「壁」は、心の中の純粋な空間を守るための心の壁として捉えられます。
この作品では、「壁は存在しない」とも言及されていますが、それは自分の心を守るために自分自身が作り出しているものであり、自分の問題を解決すれば壁は消えるという考え方が示されています。
主人公と少女の関係は、作品の初めで描かれています。
しかし、この関係は作品全体の中心ではありません。
少女は、家族との関係が難しく、信頼できるのは祖母だけであることが描写されています。
彼女の言葉、「心と身体が離れている」と「いろんなことにたくさん時間がかかる」という言葉は、後に登場する他のキャラクターの心情やテーマと関連しています。
子易さんは、主人公が新しく働く図書館の館長であり、彼は過去に大きな喪失を経験しています。
彼の奥さんと息子は、交通事故で亡くなったのです。
「街とその不確かな壁」を考察!まとめ
村上春樹さんのアストゥリアス皇太子賞受賞は、日本文学の国際的な評価を示すものとなりました。
最新作「街とその不確かな壁」も、多くの読者や文学者からの注目を集めています。
作品を読む前に知っておかなければならない概念、考え方などがあるところが村上文学だと思いました。
今後も、村上春樹さんの作品がどのように世界との架け橋として機能していくのか、注目していきたいと思います。